IR動画を作る目的は、会社をかっこよく見せることではありません。説明会の会場に来られなかった投資家にも、来た人と同じ情報を、同じ質で届けることです。
決算説明会に出席できるのは、日程と場所の都合がついた人だけです。個人投資家の多くは参加できませんし、地方や海外の投資家も同じです。資料だけを公開しても、経営者がどこに力を込めて話したかは伝わりません。動画は、その差を埋める手段として使えます。
そして、作った動画を届ける場所として、東京証券取引所が上場会社向けに無料の掲載枠を用意していることは、あまり知られていません。この記事では、IR動画の使いどころを開示イベントごとに整理し、制作の実務、投資家の属性による設計の違い、費用の目安、そして無料の掲載枠までを解説します。
IR動画とは(何のための動画か)
IR動画は、投資家に向けて会社の業績、戦略、事業内容を伝える動画の総称です。決算説明会の録画、株主総会の事業報告映像、事業別の解説動画、統合報告書と連動した映像などが含まれます。
この分野には、動画を後押しする制度的な背景があります。金融商品取引法第27条の36、いわゆるフェア・ディスクロージャー・ルールです。金融庁のガイドラインは、このルールを「投資者に対する公平な情報開示を確保するために導入されたもの」と説明し、上場会社に対して「本ルールの趣旨・意義を踏まえ、積極的に情報開示を行うことが期待されています」としています。
ここから読み取れることは単純です。特定の相手にだけ詳しく説明し、他の投資家には届かない状態は望ましくない。だとすれば、説明会で話した内容を録画して誰でも見られる場所に置くことは、公平な情報開示という考え方に沿った運用になります。IR動画を「余力があれば作るもの」ではなく「情報開示の一部」と位置づけると、社内での説明もしやすくなります。
IR動画の種類と使いどころ
IRの1年は、開示のイベントで区切られています。動画の使いどころも、そのカレンダーに沿って決まります。

| 開示イベント | 動画の役割 | 更新の頻度 |
|---|---|---|
| 決算説明会(四半期・通期) | 業績のハイライト、セグメント別の動向、今後の見通しを短時間で把握してもらう | 四半期ごと |
| 株主総会 | 事業報告、議案説明、オープニング映像。総会後のアーカイブ公開も含む | 年1回 |
| 事業別・プロダクト解説 | 説明会では伝えきれない事業モデルや競争優位を深掘りする | 随時 |
| 統合報告書・サステナビリティ | 中期計画、マテリアリティ、人的資本、気候変動対応を映像化する | 年1回 |
| 海外投資家向け | 上記の英語版・多言語版 | 元の動画に連動 |
このうち、更新の頻度が制作の考え方を大きく変えます。年1回の株主総会向けの動画は、その年のために作り切る形で構いません。一方、四半期ごとに出す決算説明会の動画は、毎回ゼロから作っていては費用も時間ももちません。次の章で扱う「差し替えを前提にした設計」が必要になります。
決算説明会の動画配信
決算説明会を動画にする方法は、大きく2つあります。当日の説明会をそのまま撮影して配信する方法と、説明用の動画をあらかじめ制作して公開する方法です。

当日の収録は、実際に話された内容がそのまま残るという利点があります。質疑応答まで含めれば、投資家が知りたい論点も伝わります。一方で、収録できるのは当日1回きりで、撮り直しがききません。カメラの位置、音声の収録、スライドの映り込みを事前に設計しておかないと、公開できない品質のまま終わります。
事前に制作する方法は、業績数値やグラフを図版として作り込めるため、理解しやすい動画になります。経営者の撮影も、説明会当日ではなく都合のよい日に収録できます。
そして、四半期ごとに出すなら、次の3つを最初の1本で決めておいてください。
- 可変パートの分離:業績数値、グラフ、ハイライトのコメントなど、四半期ごとに変わる要素を、映像本編から切り離してテロップや図版として差し替えられる形にします。この設計をしておくと、毎回の撮り直しが不要になります。
- 開示資料との整合チェック:動画内の業績数値、セグメント情報、表記が、決算短信や補足資料と食い違わないよう確認する工程を、制作フローに組み込みます。当社ではこのチェックを経営企画やIR担当部門と協議しながら実施しています。
- 公開までの日程:適時開示のタイミングに合わせて動画を公開するなら、編集と社内確認の時間を逆算しておく必要があります。開示当日に間に合わせるのか、翌営業日でよいのかで、制作の進め方が変わります。
字幕と書き起こしも、あわせて検討してください。音声を出せない環境で見る投資家がいますし、書き起こしがあると内容を検索して探せます。
株主総会での動画活用
株主総会では、事業報告の映像化が定番です。決算説明会が投資判断のための場であるのに対し、株主総会は個人株主が多く出席します。専門用語を減らし、事業の中身を絵で見せる設計が向きます。
用途は3つに分かれます。総会当日に会場で上映する事業報告動画とオープニング映像、議案説明のビジュアル資料、そして総会後にWebサイトで公開するアーカイブやダイジェスト版です。
当日の上映を前提にする場合は、会場の音響と画質、議事進行の時間配分を踏まえた尺にしておく必要があります。上映のリハーサルまで想定して制作を進めると、当日の事故が減ります。
個人投資家向けと機関投資家向けで設計を変える
同じ会社の情報でも、誰に向けて話すかで作り方は変わります。ここを分けずに1本で済ませようとすると、どちらにも届かない動画になります。

たとえば同じ「中期経営計画」の説明でも、個人投資家向けなら会社がこれからどこへ向かうのかという話に絞り、機関投資家向けなら計画の前提と達成の道筋まで踏み込む、という違いになります。
個人投資家向けの動画は、事業の説明そのものが目的になります。機関投資家向けは、面談の前に見てもらう資料として機能します。当社では、事業別の詳細動画を個別のIR面談前の事前共有資料として使う設計もご提案しています。面談の時間を、基礎的な事業説明ではなく踏み込んだ議論に使えるようになるためです。
英語版・海外投資家向けの実務
海外の機関投資家比率が高い会社では、英語版の同時展開が求められます。ここで実務的に効いてくるのは、翻訳そのものよりも、数字まわりの扱いです。
会計基準が異なれば、表記も変わります。IFRS、米国基準、日本基準のどれで作るのか。通貨の表記をどうするのか。ここを決めずに翻訳だけ進めると、テロップの作り直しが発生します。
制作の順序としては、日本語版を作り切ってから英語版を派生させる形が効率的です。ただしその前提として、テロップを映像に焼き込まないでください。焼き込むと、言語を1つ増やすたびに映像から作り直すことになります。
ナレーションについては、当社では自社サービスのボイスゲート(AI音声生成)を使い、スタジオ収録なしで英語や中国語のナレーションを派生させる方法もご提案しています。四半期ごとに差し替えが発生するIR動画では、差し替えパートだけを置き換える運用ができるため、収録の手配が制作のボトルネックになりません。
公開と運用の実務
動画が完成してからの実務も、IRでは他の分野と違う点があります。
置き場所は、IRサイトへの埋め込みが基本です。投資家がその情報を探しにくる場所に置くという意味で、決算資料と同じ階層に並べるのが自然です。動画プラットフォームを使う場合は、公開の範囲を確認してください。開示のタイミングより先に公開されてしまうことを避けるため、限定公開の設定を使い、開示後に切り替える運用があります。
字幕と書き起こしは、アクセシビリティの観点で入れておくことをお勧めします。音声を出せない環境で見る人、聞き取りに配慮が必要な人に加えて、内容を検索して探したい人にも役立ちます。当社では、IRサイト掲載用の埋め込み設計、動画プラットフォームでの限定公開の設定、字幕や書き起こしまで含めてご提案しています。
そして、公開後に決めておきたいのが、いつ下げるかです。IR動画は業績数値、年号、組織名など、古びるのが早い要素を多く含みます。前期の見通しを語った動画がIRサイトに残ったままだと、現在の見通しと混ざって読まれます。公開する時点で、次の開示までなのか、1年間なのか、掲載の期限を決めておいてください。当社の経験でいえば、IR動画の設計で最も後から効いてくるのは、演出の凝り方ではなく、この「古くなる部分をどこに閉じ込めたか」です。
会社の情報発信全体の中でのIR動画の位置づけは、広報動画の活用方法で整理しています。
東証IRムービー・スクエアという掲載枠
作った動画をどこに置くかを考えるとき、上場会社であれば選択肢が1つ増えます。
東京証券取引所は、上場会社の会社紹介や社長メッセージ、決算説明などの投資者向け動画を、YouTubeの東証専用チャンネル「東証IRムービー・スクエア」で配信しています。日本取引所グループの案内によれば、このサービスの利用は無料です。掲載した動画は、日本取引所グループが運営するメールマガジンや公式のソーシャルアカウントで投資家にプロモーションされます。英語版の動画も、海外の投資家向け情報として掲載が案内されています。
申込書と利用規約は、上場会社向けシステムであるTargetのトップページから、関連リンクの上場会社向けサービス案内を経由して確認できます。手続きは開示実務の担当部署が触るルートにあるため、広報や経営企画で動画を作った場合、この枠の存在自体が共有されていないことがあります。
自社のIRサイトに置くだけでは、もともと自社に関心のある人にしか届きません。取引所のチャンネルは、上場会社の動画を横断して探している投資家が集まる場所です。制作の企画段階で、掲載を前提に動画の尺や内容を考えておくと、公開後の露出が変わります。
(掲載条件や手続きは変更される場合があります。実際の申込前に、日本取引所グループの最新の案内をご確認ください。)
IR動画の制作費用
当社は制作費を公開しています。料金ページの種類別の相場では、IR動画の目安は30万円から80万円です。価格帯は、49万円まで、50万円から99万円、100万円から299万円、300万円以上の4つに分かれています。
IR動画の場合、予算はこの価格帯と、開示イベントの種類がおおむね対応します。
| 予算の目安 | 内容 |
|---|---|
| 49万円まで | 四半期決算説明会の短尺動画など、定型のシリーズを年間で運用する構成 |
| 50万円から99万円 | 株主総会の事業報告映像、オープニング映像、業績ハイライト映像 |
| 100万円から299万円 | 統合報告書と連動したESG・サステナビリティ訴求動画、複数の開示資料と連動するシリーズ |
| 300万円以上 | 海外機関投資家向けの多言語展開、長期のブランドIR、周年記念との連動 |
IR動画で費用の考え方が他の動画と違うのは、1本あたりの金額より年間の運用費で見たほうが実態に合う点です。四半期ごとに出すなら年4本が前提になります。ここで最初の1本を差し替え前提で設計しておくと、2本目以降は可変パートの制作だけで済み、年間の総額が下がります。逆に毎回作り切りで発注すると、同じ内容でも年間の費用は数倍になります。
当社の経験でいえば、費用が想定を超えるケースの多くは、制作の単価ではなく、この運用設計をしないまま本数が増えたことによるものです。1本目の相談のときに、来期以降に何本出す予定かをお伝えいただけると、設計から変えられます。
IR動画のよくある質問
決算説明会の動画と会社紹介動画は何が違いますか?
目的と要求される正確性が違います。決算説明会の動画は、業績と経営戦略を投資家に正確に伝える用途で、開示資料との整合、適時開示ルールへの配慮、数値の正確性が最優先になります。会社紹介動画は事業理解を広く訴求する用途が中心です。情報の正確性の要件、更新の頻度、トーンが大きく異なるため、別々に設計して制作するのが一般的です。会社紹介動画そのものについては会社紹介動画の作り方で扱っています。
経営者の撮影スケジュールが取れない場合はどうしますか?
分割して収録する、質疑応答の形式で収録を進めて拘束時間を減らす、といった方法があります。撮影の時間がどうしても確保できない場合は、原稿と映像素材とナレーションで構成する方法や、AIアバターで代替する方法もあります。AIアバターを企業の情報発信に使う場合の注意点はAIアバターの危険性で整理しています。
統合報告書と連動した動画も作れますか?
作れます。統合報告書やサステナビリティレポートの内容と連動させ、マテリアリティ、人的資本、気候変動対応といった中長期のテーマを映像化する設計です。統合報告書のWeb版やIRサイトでの長期掲載を前提にするため、四半期で古びる数値を中心に据えない構成にします。環境や社会への取り組みを伝える動画全般についてはCSR動画の作り方でも扱っています。
制作期間はどのくらいかかりますか?
内容によりますが、当社の会社紹介や事業紹介の事例では2ヶ月から3ヶ月が中心です。株主総会や決算発表など日程が動かせない場面で使う動画は、開示日や開催日から逆算し、社内の確認プロセスの時間も含めて計画してください。四半期ごとの差し替えは、可変パートのみであれば大幅に短縮できます。
IR動画は、届く範囲を広げるために作る
IR動画の価値は、映像としての完成度よりも、届く範囲の広さにあります。説明会に来られなかった投資家、地方の個人株主、海外の機関投資家に、同じ情報を同じ質で届けられるかどうかです。
そのために決めることは3つです。どの開示イベントで使うのか。誰に向けて話すのか。そして、四半期ごとに差し替えるのか、年1回作り切るのか。この3つが決まれば、尺も、表現も、費用の組み方も決まります。上場会社であれば、東証の無料の掲載枠も選択肢に入ります。
当社は、決算説明会、株主総会、統合報告書との連動、海外投資家向けの英語版まで、開示イベントごとに最適化したIR動画をご提案しています。四半期運用を前提にした差し替え設計や、年間のIRカレンダーに沿ったシリーズ展開もご相談いただけます。詳しくはIR(株主総会・決算説明会)の動画制作をご覧ください。
1,000社5,000本の実績