ディーンの法則とは、動画や静止画における「画面の位置」によって「伝えやすいイメージが異なる」という理論です。舞台演出家のディーンという人物が考案しました。
「画面の位置」とは、例えば、動画が再生されているパソコンモニターの「右上」や「中央下段」といった場所のことです。
「伝えやすいイメージ」とは、「ロマンチックなイメージ」や「落ち着いた雰囲気」といったものです。
ディーンの法則では、画面を横2行、縦3列で区切って6マスをつくります。そしてそれぞれのマスの持つ「伝えやすいイメージ」は、次のとおりであるとしています。
【ロマンチックさを伝えやすい位置】 イメージ:優しさ、甘美さ、美 |
【権威を伝えやすい位置】 イメージ:対話や説得のシーン |
【意志や運命を伝えやすい位置】 イメージ:力強さ |
【落ち着いた雰囲気を伝えやすい位置】 イメージ:癒し、安らぎ |
【ドラマチックな雰囲気を伝えやすい位置】 イメージ:躍動感 |
【安定性や事務的な要素を伝えやすい位置】 イメージ:事務的、情報 |
実際の写真に当てはめてみましょう。
動画でロマンチックなシーンを撮影するとします。そのとき、画面の左上にビジュアル情報を集中させると効果を生みだしやすくなることがわかります。例えば、若い男女がお互いに触れあうシーンであれば、男女の役者を左上に配置し、中央から右と下段にはその他の対象物を置くとよい、というわけです。
また、健康食品をPRする動画であれば、成分などの文字情報は右下に置くことになります。
自動車のPR動画であれば、馬力、トルク、排気量などのデータも右下がよいわけです。
そして、PR動画で最も大きな効果を生む場所は右上の「意志や運命を伝えやすい位置」です。監督やカメラマン、編集者は、ハイライトシーン(山場)では、ビジュアルデータを右上に集中させるようにします。
そしてPR動画で2番目に重要な場所は中央下の「ドラマチックな雰囲気を伝えやすい位置」です。
商品を紹介する動画では、中央下に商品を置くと、視聴者の印象に残りやすくなります。また重要なキャッチコピーも、真ん中下に配置することで、視聴者にメッセージが届きやすくなります。
同じ文字情報でも、データ類は右下に、キャッチコピーは中央下に配置することで、情報伝達力に強弱をつけることができます。
すべてを伝えることはできない
ディーンの法則は、撮影テクニックを教えていますが、同時に「動画の内容のすべてを視聴者に伝えられるわけではない」ことも示唆しています。
動画も、一瞬一瞬は1枚の静止画になります。そこで「動画の内容のすべてを視聴者に伝えられるわけではない」ことを、下の写真を使って説明してみます。
この写真を10秒見てから、「写真を隠して」、写真下の質問に答えてみてださい。
写真を隠して、次の質問に答えてください。
- 船は何艘ありましたか
- 雲はいくつありましたか
- 右の山と左の山では、どちらのほうが樹木が多く残っていましたか
- 湖の向こうには何がありましたか
答えられない質問があったら、写真を見直してみてください。全問正解できた人以外は「写真を集中して10秒間見ても、すべてのビジュアル情報を獲得できるわけではない」ことを体験できたことになります。
この写真を、ディーンの法則のしたがって6等分してみましょう。
木々が生えていない山 | 湖の奥の雪山と4個の雲 | 木々が豊かに生えている |
水面に映った山と、1個の雲の半分 | 船2艘と、4個の雲 | 水面に映った雲 |
例えば、先ほどの質問に「船が湖に2艘浮いていた」としか答えられなかった人は、その他の5個のマスの情報を獲得できなかったことになります。
同じことは動画でも起きます。
監督やカメラマン、編集者は、6マスすべてに情報を盛り込まなければなりませんが、それと同時に「視聴者は最悪、画面の6分の1しか認識しない」と覚悟する必要があります。
そのため、画面のなかに6個の情報を入れつつも、どれか1個に視聴者の焦点が行くように演出しなければなりません。
例えば、健康食品に興味はあるものの、成分まで詳しく知る必要がない消費者もいます。つまり健康食品の動画では、成分の情報は、すべての視聴者に伝えなければならない最重要情報ではありません。そこでディーンの法則では、成分などのデータを、右下に追いやっています。
ディーンの法則は、動画制作者が、視聴者に見せたいものを、上手に見せるテクニックといえます。