AIアバターを使いたいが、安全なのか判断できない。そう感じている企業は少なくありません。悪用されるのではないか、権利の問題が起きるのではないか、依頼先を信用してよいのか。
実際に起きているのは、もっと具体的なつまずきです。無料ツールで作った動画を広告に使ったら規約違反だった。退職した社員のアバターを使い続けてよいか分からなくなった。制作を依頼した会社が、生成に使ったツールも権利の扱いも説明できなかった。
私たちも自社でAIアバター動画を制作しています。公開しているサンプルは9本で、いずれも撮影を伴わず数日で作っていますが、制作のたびに確認しているのは技術の安全性ではありません。法律の面で問題にならないか、使うツールの規約に反していないか、依頼する相手が権利の扱いを説明できるか。この3点です。
この記事では、企業がAIアバターを使うときのリスクを、法律・利用規約・事業者の3つに分けて整理します。あわせて、誰の顔と声を使うかで変わる手続きと、発注前に確認すべき項目を示します。
AIアバターの危険は、3つに分かれる
まず全体像を整理します。AIアバターの危険性は、性質の違う3つが混ざって語られがちです。分けて考えると、自社に関係するものだけを確認できます。

- 法律のリスク:他人の顔や声を無断で使えば肖像権やパブリシティ権の問題になり、実在の人物になりすませば別の法律に触れます。自社が加害者になる側のリスクです。
- 利用規約のリスク:AIアバターを作るツールには、それぞれ商用利用の条件があります。作れることと、仕事で使えることは同じではありません。違反しても法律に触れるとは限りませんが、アカウントの停止や動画の削除につながります。
- 事業者のリスク:制作を頼む相手が権利の扱いを説明できるかどうかで、後の安全性が決まります。
以下、順に見ていきます。
法律の面で問題になること
法律に関わる論点は、次のように整理できます。細かい解釈は専門家の判断が必要ですが、どこに気をつけるべきかは把握しておいてください。
| 論点 | どんなときに問題になるか | 関係する法律 |
|---|---|---|
| 肖像権・パブリシティ権 | 実在する人物の顔を、本人の同意なくアバターにする | 民法上の人格権、著名人の場合はパブリシティ権 |
| 声の無断利用 | 実在する人物の声を、本人の同意なく合成する | 人格的利益の侵害、契約違反 |
| なりすまし | 実在の企業や人物になりすまして情報を発信する | 不正競争防止法など |
| 詐欺への悪用 | AIアバターを使って金銭をだまし取る | 刑法の詐欺罪 |
| 個人情報の扱い | 顔や声のデータを本人の同意なく取得・保存する | 個人情報保護法 |
| 誤解を招く発信 | AI生成であることを隠して、実在の人物の発言のように見せる | 各プラットフォームの規約、景品表示法に触れる場合も |
企業がAIアバターを使う場面で最も現実的なのは、上から2つです。自社の社長や社員をアバター化する、ナレーターの声を合成する。この2つは、本人の同意さえきちんと取れていれば問題になりません。逆に、同意の範囲を超えて使うと、そこから問題が始まります。
なお、AIアバターそのものを直接規制する法律は、現時点の日本にはありません。既存の法律を当てはめて判断することになります。海外向けに発信する場合は、EUのAI規制のように、AI生成であることの明示を求める仕組みがある地域もあるため、公開範囲に応じて確認してください。
「無料で作れる」と「仕事で使える」は別
ここが最も見落とされ、実際に事故が起きやすい部分です。AIアバターを作るツールは無料で試せるものが多くありますが、その出力を仕事で使えるかどうかは、規約で細かく決まっています。

主要なツールの規約を確認すると、次のようになっています(いずれも2026年8月時点、各社の公式規約とヘルプで確認)。
HeyGenの利用規約では、無料プランで生成した出力について、販売、再配布、収益化、商用活動、広告、クライアントワーク、収益を生む製品に使うことを認めていません。利用が許されるのは個人的な用途と内部評価の範囲です。加えて、生成物がAIによって作られたものであることを、出所を誤解させないように開示することも求めています。
Synthesiaの場合は、無料か有料かではなく、使うアバターの種類で条件が変わります。同社のストックアバターや合成アバターを使った動画は、自社サイトの研修動画やFAQ動画、SNSでの共有は認められていますが、有料のテレビ広告、有料のFacebook広告、Instagram広告、YouTube広告、TikTokやSnapchatの広告、プログラマティック広告といった、あらゆる形態の有料プロモーションには使えません。違反した場合、動画の削除や編集を求められ、アカウントが停止されることもあると明記されています。
一方、自社で用意したカスタムアバターを使う場合は、この制限は適用されません。代わりに、肖像を提供した本人との合意に従うことになります。その人が法定年齢に達していること、声や肖像の使用について自由な意思で、十分な説明を受けたうえで同意していることを確認する必要があります。社内の合意がある場合でも同じです。
つまり、こういうことです。無料で作った動画をそのまま広告に回す、ツールが用意したアバターで有料広告を出す。この2つは、規約上できないことが多いと考えてください。逆に、自社の社員をアバター化し、本人の同意を取ってあれば、使える範囲は広がります。
無料で使えるAIアバター作成ツールについては無料で今すぐ作れるAIアバターのおすすめツール5選で紹介していますが、業務で使う場合は必ず、そのプランと使うアバターの種類で何ができるかを規約で確認してください。動画生成AI全般の商用利用の条件は動画生成AIツールでも整理しています。
誰の顔と、誰の声を使うか
規約の次に決めるのが、素材の出どころです。AIアバターは、誰の顔と誰の声を使うかで、必要な手続きがまったく変わります。選び方は大きく3通りです。

- ツールが用意しているアバターと音声を使う:実在の人物ではないため、本人の同意は不要です。ただし前の章のとおり、使える範囲が規約で制限されます。手軽さと引き換えに、広告での利用ができないことが多いと理解しておいてください。
- 自社の社員や経営者をアバター化する:必要なのは本人の同意です。決めておくべきなのは、使う範囲(社内向けか、Webサイトか、広告か)、使う期間、退職した場合の扱いの3点です。とくに退職後の扱いはあとから揉めやすいため、同意書を交わす段階で、退職時に使用を停止するのか、一定期間は継続するのかを決めておいてください。
- タレントや声優を起用する:通常の出演契約に加えて、アバター化して繰り返し使うこと、生成した音声で新しい原稿を読ませることについて、個別に取り決めが必要になります。撮影した映像を使うだけの契約とは別物です。
私たちが企業から相談を受けるときも、最初に伺うのは誰の顔と声を使うかです。ここが決まらないと、費用も納期も、使える範囲も決まりません。
公開する場所によって変わること
同じ動画でも、どこに出すかで守るべきルールが変わります。
自社サイトに載せる場合は、比較的制約が少なくなります。ただし、AIアバターが実在の担当者のように見える場合、視聴者が本物の人間だと誤解しないよう配慮してください。
SNSに投稿する場合は、プラットフォーム側のルールが加わります。YouTubeでは、現実のように見えるコンテンツをAIで生成または大幅に改変した場合、アップロード時に「AIの使用」の設定で開示することが求められています。開示すると、動画プレーヤーまたは説明欄にラベルが表示されます。なお、開示しても視聴者に制限がかかることはなく、収益化の資格にも影響しないとされています。非現実的な表現や軽微な編集は開示の対象外です。
AIアバターは実在の人物のように見せるものなので、多くの場合この開示の対象になると考えておくのが安全です。ほかのSNSにも同種のルールがあるため、投稿先ごとに確認してください。
広告として出稿する場合は、前述のとおりツールの規約が最も厳しくなります。有料広告に使えるかどうかを、出稿を決める前に確認してください。作ってから使えないと分かると、作り直しになります。
怪しい事業者を見分ける観点
AIアバターに関する不安の中には、技術そのものではなく、それを提供する事業者に対するものも含まれます。制作や運用を外部に任せる場合、次の点を説明できるかどうかで判断してください。
- 何のツールで生成しているかを答えられるか:使用するツールが分かれば、その規約で何ができるかを自社でも確認できます。ここを曖昧にする相手には、その先も確認できません。
- 納品物をどこまで使ってよいかを書面で示せるか:自社サイトのみか、広告にも使えるのか、期間の定めはあるのか。口頭の説明だけで進めないでください。
- 肖像と声の権利をどう処理しているか:自社の社員を使う場合の同意書の様式、タレントを起用する場合の契約範囲について、具体的な運用を答えられるかを見てください。
- 削除や差し替えに応じる体制があるか:出演者の退職や、内容の改定は必ず起こります。そのときにどう対応するかを、契約の段階で決めておきます。
- 料金の内訳を説明できるか:何にいくらかかっているかが分からない見積もりは、後から追加費用が発生しやすくなります。
これらは、AIアバターに限らず動画制作全般に言えることですが、AIアバターは「安く早く作れる」という点が前面に出やすいぶん、権利の話が後回しにされがちです。安さの理由を説明できる相手を選んでください。
発注する前に確認する7項目
最後に、社内で決めておくこと、依頼先に確認することをまとめます。
- 誰の顔を使うか(ツールのアバター、自社の社員、タレント)
- 誰の声を使うか(合成音声、社員の声、ナレーター)
- 本人の同意をどの範囲で取るか(用途、公開場所、期間、退職時の扱い)
- どこで公開するか(自社サイト、SNS、有料広告、社内限定)
- 使うツールとそのプランで、その公開先が認められているか
- AI生成であることを開示する必要があるか
- 更新と削除の手順(誰がいつ判断し、どう差し替えるか)
このうち4番と5番は、必ずセットで確認してください。公開先が決まらないままツールを選ぶと、あとで使えないことが分かります。
当社では、法人向けのAIアバター動画の制作に対応しています。使うアバターの種類、公開先、権利の扱いを整理したうえでご提案しますので、AIアバター作成サービスからご相談ください。
AIアバターのよくある質問
AIアバターは危険ですか?
技術そのものが危険なのではなく、使い方によってリスクが生じます。企業が注意すべきなのは、他人の顔や声を同意なく使わないこと、使うツールの規約で認められた範囲を超えないこと、AI生成であることを隠して誤解を招かないことの3点です。この3つを守っていれば、社内研修や商品説明といった用途で問題になることはほとんどありません。
無料のツールで作った動画を広告に使えますか?
多くの場合、使えません。たとえばHeyGenの利用規約では、無料プランで生成した出力を広告やクライアントワークに使うことを認めていません。またSynthesiaでは、有料プランであっても、同社が用意したストックアバターや合成アバターを使った動画は、有料広告全般に使えないと明記されています(いずれも2026年8月時点)。広告に使う予定があるなら、契約前に必ず確認してください。
社員をアバター化した場合、退職後も使えますか?
同意の取り方によります。同意書に使用期間や退職時の扱いを明記していなければ、後から差し止めを求められる可能性があります。実務上は、同意を得る段階で、退職した場合に使用を停止するのか、一定期間は継続するのかを決めておくのが安全です。この点を決めずに数年使い、あとから作り直すことになった例は珍しくありません。
AIで作った動画だと視聴者に伝える必要はありますか?
公開する場所によります。YouTubeでは、現実のように見えるコンテンツをAIで生成または大幅に改変した場合、アップロード時に開示することが求められています。開示すると動画にラベルが表示されますが、収益化の資格には影響しないとされています。また、AIアバターを実在の担当者のように見せる場合は、規約の有無にかかわらず、視聴者が誤解しない配慮をしておくほうが安全です。
AIアバターは、法律・利用規約・事業者の3つで確認する
AIアバターの危険性は、法律・利用規約・事業者の3つに分けて考えると整理できます。企業が実際につまずくのは、法律よりも利用規約であることが多く、無料で作れることと仕事で使えることは別だという点が最大の落とし穴です。
導入を検討されるなら、誰の顔と声を使うか、どこで公開するか、その公開先がツールの規約で認められているか。この3つを、作り始める前に確認してください。順番を間違えると、作ったあとに使えないことが分かります。
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