動画制作を外注するとき、制作会社から最初に渡されることが多いのがヒアリングシートです。目的、ターゲット、予算、納期。項目を見て「まだ決まっていないことばかりだ」と手が止まり、問い合わせ自体を先送りにしてしまう担当者の方は少なくありません。
先に結論を言うと、ヒアリングシートは全項目を埋める必要はありません。制作会社が本当に困るのは空欄ではなく、何も決まっていないままの発注です。当社の見積もりは、撮影日数、人数、タレントの有無といった7つの要因で金額が動きます。そこに触れる項目さえ仮置きで埋まっていれば、概算の提案は出せます。逆に、埋まっていない項目が何かによって、見積もりや納期がどうブレるかも決まっています。
この記事では、動画制作会社の立場から、ヒアリングシートの各項目が「なぜ聞かれるのか」「空欄だと何がブレるのか」を解説します。そのまま使えるテンプレートも用意しました。決まっていないことがあっても大丈夫なように、仮置きの書き方まで含めて説明します。
動画制作のヒアリングシートとは。誰が作る文書か
ヒアリングシートとは、動画制作に必要な情報を発注前に整理するための質問票です。一般に、制作会社側が用意して発注側に記入してもらう形を取ります。病院の問診票にたとえられることが多く、症状(課題)と希望を先に共有しておくことで、初回の打ち合わせから具体的な提案に入れるようになります。
似た文書に提案依頼書(RFP)があります。両者は作る主体が逆です。
| 文書 | 作る主体 | 役割 |
|---|---|---|
| ヒアリングシート | 制作会社が用意し、発注側が記入する | 制作会社が提案・見積もりに必要な情報を集める質問票 |
| 提案依頼書(RFP) | 発注側が作成し、制作会社へ渡す | 発注側が要件を明文化し、複数社へ同条件で提案を求める文書 |
実務上は、どちらか一方があれば十分なことがほとんどです。1社に相談するならヒアリングシートへの記入で足りますし、複数社を比較したいなら、記入したヒアリングシートをそのまま各社に渡せば提案依頼書の役割を果たします。この記事のテンプレートは、その両方の使い方を想定して作っています。
ヒアリングシートのテンプレート(無料・登録不要)
はじめにテンプレートを掲載します。14項目で、一般的なテンプレートより編集要件・権利・社内体制の項目を増やしています。理由は次章で説明しますが、この3つが抜けたまま制作が始まると、後から金額と納期が動くためです。
このテンプレートは、当社の公開している料金の構造(金額が動く7つの要因)と、実績ページで公開している案件情報の項目をもとに、本記事用に作成したものです。当社が実際のご相談で使用しているヒアリングシートとは別のものです。ダウンロードして自由にお使いください。
動画制作ヒアリングシート テンプレート(Excel・14項目+記入例シート付き)をダウンロード
| 分類 | 項目 |
|---|---|
| 目的 | 1. 動画の目的・ゴール(できれば数値目標) |
| 目的 | 2. ターゲット(誰に見てもらうか) |
| 配信 | 3. 用途・配信場所(サイト、SNS、広告、展示会など) |
| 配信 | 4. 納期・公開時期 |
| 予算 | 5. 予算の幅(上限、または「要相談」) |
| 内容 | 6. 動画の種類・本数・尺 |
| 内容 | 7. 参考動画・イメージ |
| 内容 | 8. 避けたい表現・NG事項 |
| 制作 | 9. 撮影の有無・場所・出演者 |
| 制作 | 10. 支給できる素材・自社リソース |
| 制作 | 11. ナレーション・BGM・テロップの希望 |
| 契約 | 12. 納品形式・データの引き渡し |
| 契約 | 13. 著作権・二次利用の希望 |
| 体制 | 14. 決裁者・社内の確認フロー |
各項目の意味。空欄だと何がブレるのか

ヒアリングシートの項目は、埋まらないと「見積もりがブレる」「納期がブレる」「修正が増える」のどれかにつながっています。項目ごとに、空欄のまま進んだときに何が起きるかを説明します。
目的・ターゲット(1〜2)。提案の方向が決まらない
目的が曖昧なまま進むと、構成案の段階で「そもそも何のための動画か」に立ち返る往復が発生し、企画のやり直しになります。「認知を広げたい」より「問い合わせを月10件増やしたい」のように、数字があると提案の精度が上がります。ターゲットはトーンと演出の前提です。同じサービス紹介でも、経営者向けと現場担当者向けでは、言葉の選び方も見せる情報も変わります。
用途・配信場所・納期(3〜4)。尺と縦横比と逆算スケジュールが決まらない
用途は技術仕様に直結します。サイト掲載なら横型で2〜3分、SNS広告なら縦型で15〜30秒というように、配信場所が決まらないと尺も縦横比も決められません。後から「広告にも使いたい」となると、編集のやり直しが起きます。納期は工程の逆算に必要です。当社の公開実績のデータでは、制作期間は中央値で2ヶ月です。公開希望日から逆算して間に合わない場合、工程を圧縮できるかの相談が先に必要になります。
予算の幅(5)。提案の規模が決められない
制作会社が予算を聞くのは、上限いっぱいまで請求したいからではなく、提案の規模を決めるためです。同じ「会社紹介動画」でも、50万円と300万円では設計がまったく違います。予算が空欄だと、制作会社は当てずっぽうの規模で提案するしかなく、高すぎて驚かせるか、安すぎて物足りない提案になるかのどちらかになります。金額を書きにくい場合は「上限◯◯万円」「◯◯万円から◯◯万円の間」で十分です。
動画の種類・本数・尺・参考動画・NG事項(6〜8)。見積もりの前提と後戻りの防止
種類・本数・尺は見積もりの中核です。当社の料金構造では、金額を動かす主な変数は、動画の長さ、撮影日数、カメラ台数、制作に関わる人数、タレント・モデルの起用、ロケ会場の費用、CG・アニメーションの有無の7つで、このうち「長さ」と、撮影が要るかを左右する「種類」はここで決まります。参考動画はトーンの認識合わせに最も効率的です。言葉で「スタイリッシュに」と伝えるより、動画を1本共有するほうが正確に伝わります。そして見落とされがちなのが、避けたい表現です。「競合他社の動画に似せたくない」「社風に合わないノリがある」といったNG事項は、初稿後に発覚すると大きな後戻りになります。事前に書いてあれば、最初から避けて作れます。
撮影・素材・編集の希望(9〜11)。撮影技術費と編集技術費が決まらない
撮影の有無と場所、出演者の人数は、撮影日数とスタッフ・機材の規模を決めます。ここが未定だと見積もりの撮影技術費が確定しません。支給できる素材は、金額を下げる方向に働く重要な項目です。過去に撮影した映像、写真、ロゴデータ、パンフレットなど、使える素材があるほど撮影と制作の工程を減らせます。実際、当社の公開実績でも、低い予算帯で成立している案件の多くは素材の支給か依頼範囲の限定を伴っています。ナレーションやBGMの希望は編集技術費の範囲を決めます。
納品形式・権利・社内体制(12〜14)。公開後のトラブルと納期遅延の防止
多くのテンプレートにないのがこの3項目ですが、制作会社の立場からは、ここが埋まっている発注は安心して受けられます。納品形式とデータの引き渡しは、後から「編集データもほしい」となると追加費用や対応不可になり得る項目です。社内での量産や更新を考えているなら、最初に書いておいてください。著作権・二次利用は、広告転用や長期利用の予定があるなら発注時に共有すべき項目で、契約と対価に関わります。決裁者と確認フローは納期に直結します。確認のたびに複数の決裁者を回す体制なら、その日数を工程に織り込む必要があるためです。
記入例と「仮置き」の書き方

決まっていない項目は、空欄にせず仮置きで書くのがコツです。制作会社は仮置きなら仮置きとして扱えますが、空欄からは何も読み取れません。ゼロ回答と仮置きの間には大きな差があります。
| 項目 | 避けたい書き方 | 仮置きの書き方の例 |
|---|---|---|
| 目的 | いい感じの動画を作りたい | 展示会で流す製品紹介。会期後は営業資料でも使いたい |
| ターゲット | 不特定多数 | 第一候補は製造業の設備担当者。社内稟議で上長も見る |
| 予算 | (空欄) | 相場が分からないため要相談。上限は100万円を想定 |
| 尺 | おまかせ | 展示会で足を止めてもらえる長さ。30秒か60秒で相談したい |
| 参考動画 | 特になし | 同業種では見つからず。異業種だがこの動画の雰囲気が近い(URL) |
| 出演者 | 未定 | 社員の出演は調整中。難しければナレーションのみも検討 |
「要相談」「調整中」「AかBで迷っている」は、すべて立派な記入です。迷っている選択肢が書いてあれば、制作会社は両方の場合の見積もりを並べて出せます。それが打ち合わせの材料になり、結果として決定が早く進みます。
予算が合わないときは、シートのどこを調整するか
見積もりが予算を超えたとき、値切り交渉よりも効くのが、ヒアリングシートの項目の書き換えです。金額を動かす項目が分かっていれば、どこを調整すれば下がるかも分かります。
- 支給素材を増やす(項目10)。既存の映像・写真を活かせば撮影工程を減らせます
- 依頼範囲を限定する(項目9〜11)。構成は社内で固めて編集だけ依頼する、といった切り出しです
- 撮影のないアニメーションに切り替える(項目6)。撮影技術費がなくなる分、金額が下がります
- 本数と尺を見直す(項目6)。長編1本より、目的を絞った短い動画のほうが安く効果的な場合があります
当社の公開実績でも、低い予算帯の案件の多くはこの組み合わせで成立しています。予算の壁に当たったら、シートに戻って調整するのが最短です。費用の構造は動画制作の費用相場を解説した記事で詳しく説明しています。
シートを送った後の流れ

記入したヒアリングシートを送ると、制作会社側では次のことが起こります。
- シートの内容から概算の規模と実現方法を検討します
- 初回の打ち合わせで、記入内容の確認と不明点のヒアリングを行います。シートが埋まっているほど、この打ち合わせは提案の中身に時間を使えます
- 構成案と見積もりの提示に進みます
つまりヒアリングシートは、提出して終わりの書類ではなく、打ち合わせの質を決める下ごしらえです。当社の公開実績のデータでは、企画から一括で依頼される案件が約6割を占めますが、その場合もシートの情報が企画の出発点になります。
参考までに、受け取った制作会社側がシートでまず見るのは次の3点です。1つ目は予算と内容の整合で、この内容をこの予算で実現するには何を工夫すべきかを考えます。2つ目は納期の実現性で、公開希望日から逆算して、社内確認の日数まで含めて間に合うかを確かめます。3つ目は権利の見落としで、広告転用の予定があるのに出演者や素材の許諾が短い期間で想定されていないか、といった後から問題になりやすい箇所を先に拾います。シートが埋まっているほど、この確認が速く終わり、提案に時間を回せます。
制作会社をこれから選ぶ段階なら、記入したシートを各社に同じ内容で渡すことで、同条件の見積もり比較ができます。比較の方法は動画制作会社の選び方の記事にまとめています。個人・フリーランスへ依頼する場合も、伝えるべき項目は同じです。個人への依頼特有の契約・法律の実務は動画制作を個人・フリーランスに外注する場合の記事をご覧ください。
発注後の工程全体は動画制作の依頼から納品までの流れを解説した記事で説明しています。
動画制作のヒアリングシートのよくある質問
ヒアリングシートとは何ですか?
動画制作に必要な情報(目的、ターゲット、予算、納期、内容の希望など)を発注前に整理するための質問票です。通常は制作会社が用意し、発注側が記入します。発注側が自社で要件をまとめて複数社へ渡す場合は、提案依頼書(RFP)と呼ばれる文書になりますが、役割は重なっており、記入済みのヒアリングシートはそのまま提案依頼にも使えます。
全部埋められない場合はどうすればよいですか?
空欄のままで問題ありません。優先して埋めたいのは、目的(何のために)と内容(何をどこで流すか)の2点です。この2つがあれば制作会社は相談に乗れます。決まっていない項目は「要相談」「AかBで迷っている」と仮置きで書いてください。空欄よりずっと多くの情報が伝わります。
予算は正直に書くべきですか?
書くことをおすすめします。予算は値切られるための情報ではなく、提案の規模を決めるための情報です。上限を書けば、その中で実現できる最大の提案が返ってきます。書きにくい場合は「上限◯◯万円」「相場が分からないため要相談」で十分です。
費用の内訳はどう確認すればよいですか?
見積もりを受け取ったら、企画・構成費、撮影技術費、編集技術費、その他の4区分で内訳を見ると、金額の根拠が分かります。詳しくは動画制作の費用相場を解説した記事で説明しています。
まとめ:シートは「全部埋める」より「仮置きでも書く」
動画制作のヒアリングシートは、完璧に埋めるための試験ではなく、打ち合わせの質を上げるための下ごしらえです。各項目は見積もり・納期・修正回数のどれかに紐づいており、埋まっているほど提案は正確になります。決まっていないことは仮置きで書けば十分です。
テンプレートは登録不要でダウンロードできます。記入した内容をもとにしたご相談は、当社でもお受けしています。制作実績と料金ページもあわせてご覧ください。
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