展示会のブースで流す動画について、最も多い失敗をご存じでしょうか。Webサイトや YouTube で公開している動画を、そのままブースのモニターで流すことです。
Webで見られている動画が、展示会場では驚くほど伝わりません。理由は会場の環境にあります。多くの展示会では、出展規程に音量の制限が明記されています。私たちが確認したある展示会の出展者マニュアルには「高さ1m、ブースより1m離れた位置で75デシベル以下」、別の展示会では「小間から発するあらゆる音は80デシベル以下」と、測定位置つきで定められていました。つまり、ナレーションで説明を聞かせる設計は、会場ではそもそも成立しにくいのです。
私たちは動画制作会社として、展示会向けの動画を数多く制作してきました。その経験から言えるのは、展示会動画は「音を出せない」「観客は立ち止まらない」「画面まで距離がある」という会場の3つの制約から逆算して作るものだ、ということです。この記事では、その設計の考え方と、費用相場、制作の流れまでを解説します。
展示会動画とは
展示会動画は、展示会のブースや会場で流すために作る動画です。目的によって、次の3種類に分かれます。
| 種類 | 目的 | 適した尺 | 流す場所 |
|---|---|---|---|
| ブース誘引用 | 通路を歩く来場者の足を止める | 15〜30秒のループ | ブース外周の大型モニター |
| 製品・サービス紹介用 | 足を止めた来場者に概要を理解してもらう | 1〜3分 | ブース内モニター |
| 商談用 | 検討段階の相手に詳細を説明する | 制限なし(説明者が操作) | 商談スペースのタブレット・モニター |
「展示会 サイネージ」という言葉で調べる方もいますが、サイネージは表示するための機材、動画はそこに流すコンテンツを指します。この記事は後者、つまり何をどう流すかの話です。
重要なのは、この3種類が別物だという点です。通路向けの誘引動画と、商談で使う説明動画を1本で兼ねようとすると、どちらの目的も果たせなくなります。この点は後半であらためて説明します。
なお、製品そのものを紹介する動画の作り方は商品紹介動画・サービス紹介動画の記事で詳しく解説しています。この記事では「展示会という場で機能させる」ための設計に絞ります。
展示会で動画を使うメリット
ブースに動画があることの効果は、次の4点に整理できます。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 足を止めるきっかけになる | 静的なパネルより動く映像のほうが通行者の視界に入る |
| 短時間で多くの情報が伝わる | 製品の動き・使用感・導入効果は、文章より映像が速い |
| 説明スタッフの負担が減る | 定型の説明を動画に任せ、スタッフは個別の質問と商談に集中できる |
| 持ち込めないものを見せられる | 大型機械・設置環境・内部構造など、会場に持ち込めない実物を映像で代替できる |
ただし、これらはあくまで「会場で機能する動画を流した場合」の話です。次の章から、その条件を具体的に見ていきます。
展示会の動画は「会場の3つの制約」から逆算する

Web用の動画と展示会用の動画は、見られる環境がまったく違います。設計の前提になる制約は3つです。
1つ目は、音を自由に出せないことです。会場には音量規制があり、そもそも周囲の騒音で細かい音声は聞き取れません。
2つ目は、観客が立ち止まらないことです。Webの視聴者は自分で再生ボタンを押しますが、展示会の来場者は目的のブースへ歩いている途中です。動画を最初から最後まで見てくれる前提は成り立ちません。
3つ目は、画面まで距離があることです。スマホの画面は目から30cm、展示会のモニターは通路から数メートル離れています。同じ文字サイズでは読めません。
この3つは会場である以上避けられない条件です。逆に言えば、3つの制約に正面から対応した動画は、それだけで会場の中で機能します。順に見ていきます。
制約①音を出せない: 会場規定と「無音で伝わる」設計
音量制限は出展規程に明記されている
「展示会では音を控えめに」という漠然とした話ではありません。多くの展示会では、主催者が定める出展規程・出展者マニュアルに音量の上限が数値で書かれています。当社が実際に確認した例を挙げます。
- 東京ビッグサイトで開催されたある産業展示会の出展者マニュアル: 「音量の目安:高さ1m、ブースより1m離れた位置で、75デシベル以下」。あわせて、音響機器を通路に向けて設置することの禁止、生演奏の禁止が定められている
- 別の大型展示会の出展要項: 「音量の上限は80デシベルです(生演奏含む)。小間から発するあらゆる音は、小間袖から測定し、80デシベル以下になるように徹底してください」。事務局が音量計測器を持って巡回し、指導する場合があることも明記されている
- 2025年開催の大型IT・エレクトロニクス展示会の出展規程: 「音量の制限 80dB以下」「測定は原則として、ブースの境界線から2mの場所において測定した音量を規準とします」。会期中に主催者が定期的に音量測定を行うこと、改善されない場合の罰則も定められている
数値は展示会ごとに異なりますが、ブースの境界付近で75〜80デシベル以下という水準が一つの目安です。80デシベルは走行中の電車内に近い騒がしさで、一見余裕があるように思えます。しかし会場全体が同じ条件で音を出しているため、実際には自社の音声だけを聞かせることはできません。ある出展要項には「通常の商談で50デシベル以下が基準」とも書かれていました。音量規制は、来場者のためであると同時に、隣のブースの商談を守るためのルールなのです。
無音でも100%伝わる状態を基準にする
したがって設計の基準は明快です。音声を消した状態で内容が100%伝わることを合格ラインにします。BGMや効果音を足すのは構いませんが、それは加点要素であって、伝達の前提にしてはいけません。
具体的には次のように作ります。
- 冒頭の1カット目で「何の動画か」をテロップで宣言する。タイトルを最後に出す構成にしない
- 説明はナレーションでなくテロップと図解で行う。話し手の映像に頼らない
- 1画面に載せるメッセージは1つに絞る。読み終わる前に切り替わるテロップは無いのと同じ
これは、音のない環境で見られる交通広告や、ミュート再生が多数派のSNSフィード広告と同じ発想です。展示会は「音が使えない媒体」だと割り切ると、設計の迷いがなくなります。
制約②立ち止まらない: ループ再生の尺設計
「最初から見てもらえる」前提を捨てる
展示会のモニターの前に、上映開始を待って集まる観客はいません。来場者は歩きながら、動画の途中の一場面を数秒だけ目にします。つまり展示会動画には「冒頭」が存在しません。どの瞬間から見られても意味が取れる構成が必要です。

当社が推奨する設計は次のとおりです。
- 全体を15〜30秒程度の独立したブロックに分ける。各ブロックはそれ単体で意味が完結する
- どのブロックにも社名・製品名か「何の話か」が常に画面内に表示されている状態を保つ
- ブロックを数本つないで全体1〜3分とし、終わったら頭からループさせる
「展示会動画の尺は何秒が正解か」という問いをよく受けますが、単一の正解はありません。決めるのは置き場所です。通路向けの誘引用なら、通行者がブース前を通過する数秒〜十数秒の間に1ブロックが目に入ればよいので、短いブロックの積み重ねが正解になります。ブース内で足を止めた人向けなら、1〜3分で全体像を語れます。商談用なら尺の制限自体が不要で、むしろ章立てして説明者が頭出しできる構成が役立ちます。
制約③距離がある: 視認距離と文字サイズ
「視認距離÷250」が文字サイズの目安
スマホ用に作った動画の文字は、展示会場ではまず読めません。看板・サイネージ業界では、必要な文字の高さを「視認距離÷250」で見積もる目安が使われています。

- 通路からブースのモニターまで約5mなら、文字の高さは2cm以上
- 少し離れた位置からブース正面の大型モニターを見せるなら、距離10mで文字の高さ4cm以上
これをモニターの画面設計に置き換えると、イメージがつかめます。50型モニターの画面の高さは約62cmです。5m先から読ませたい文字の高さ2cmは、画面の高さの約30分の1にあたります。フルHD(縦1080ピクセル)なら約35ピクセル。スマホ向け動画で使われる小さな注釈テロップは、この基準を大きく下回ります。
実務では、こう考えると設計しやすくなります。
- 通路向けの誘引動画: 1画面に大きな文字で1メッセージ。キャッチコピーの文字は画面の高さの1/8〜1/10を目安に
- ブース内の紹介動画: 視聴距離1〜2mを想定し、本文テロップも通常のWeb動画より一回り大きく
- 細かいスペック表や画面キャプチャは動画に入れない。読めない情報はノイズになるため、紙の資料や商談用タブレットに逃がす
あわせて、モニターの設置も視認性を左右します。床置きに近い低い位置では通行者の視界に入りません。画面の中心が立った人の目線の高さに近づくよう、什器やスタンドで持ち上げることを出展計画の段階で決めておくと、動画の設計と設置環境がかみ合います。
ブース誘引用・商談用・会期後用は分けて考える
3つの制約を踏まえると、1本の動画ですべてをまかなう設計に無理があることが分かります。誘引用は無音・短尺ループ・大文字、商談用は音声も細かい情報も使える環境で流すもので、求められる作りが正反対だからです。
予算の都合で1本しか作れない場合は、長めの紹介動画を先に作り、そこから誘引用の短尺ループを切り出す設計にしておくと、後からの追加費用を抑えられます。逆の順序、つまり短尺の誘引動画を後から長編に引き伸ばすことはできません。素材の撮り方が変わるためです。
もう一つ、制作前に決めておきたいのが会期後の使い道です。展示会動画は会期の数日間だけでは費用対効果が測りにくく、次の場面に転用してはじめて投資が回収しやすくなります。
- 営業資料への埋め込み、商談前の事前送付
- 自社サイトの製品ページ・サービスページへの掲載
- YouTubeでの公開、次回展示会での再利用
転用の予定があるなら、契約と設計の両方に反映しておく必要があります。展示会名や年号を映像に焼き込まないこと、出演者の肖像やナレーションの使用範囲を会期限定にしないことです。後から気づくと再編集や再契約の費用が発生します。
実機を持ち込めないときは、3DCGやアニメーションで見せる
展示会ならではの表現手法の判断があります。大型の機械、設置済みの環境、製品の内部構造は、会場に持ち込めません。搬入できないものを見せることこそ動画の役割であり、その手段が3DCGとアニメーションです。
実際、当社の展示会関連の実績は、他の用途と比べて3DCGの比率が高くなっています。プロジェクターや業務機器のように「動作している環境ごと見せたい」製品、精密機器のように「内部の仕組みを見せたい」製品が、展示会の主役になりやすいためです。
実写かCGかで迷う場合の判断基準はシンプルです。会場のブースに実物を置けるなら実写のデモ映像を、置けないなら3DCGやアニメーションを検討してください。両者を組み合わせて、実物はブースに置き、動画では内部構造や導入環境を見せる分担も有効です。
展示会動画の制作事例
当社が実際に制作し、公開している展示会関連の実績から5本を紹介します。
ドイツ・ミュンヘンでの展示会向けに制作したのが、EMSのスプリングドリル製品紹介動画です。実機を様々な角度から撮影し、説明は英語テロップに集約しました。ナレーションで聞かせるのではなく、映像とテロップで見せて、BGMで力強い印象を作る構成です。制作期間2ヶ月・実写・費用帯は50〜99万円です。
朋栄のバーチャル展示会ツアー動画は、米国の放送機器展への出展を予定していた製品群を、出展予定のブースレイアウトを活かしたツアー形式で紹介した事例です。オフラインでの販促が制限された時期に、展示会を動画でオンラインへ持ち込みました。制作期間は1ヶ月です。
メッセフランクフルトジャパンの展示会映像は、出展者側ではなく主催者側の依頼で、ビューティーワールドジャパン福岡の会場の熱気を撮影・編集した事例です。エンディングに次回開催の告知を入れ、会期の記録がそのまま次回の営業・集客ツールになる構成にしています。制作期間2ヶ月・実写です。
エキスパートスタッフの企業紹介アニメーションは、展示会向けに制作した後、YouTube掲載向けに一部修正したパターンも制作した事例です。前の章で述べた会期後の二次活用を、実際に設計に織り込んだ形です。費用帯は49万円以下で、アニメーションのため撮影工程がなく、この価格帯に収まっています。
リコーのインタラクティブホワイトボード紹介動画は、展示会だけでなくセミナー・営業ツールの用途でも使われている製品紹介動画です。アニメーションと実写を組み合わせ、多言語展開時に字幕を入れやすいシネマスコープ比率で制作しました。会期後の転用を設計段階から見込むと、こうした仕様の判断が最初からできます。制作期間は3ヶ月です。
このほかの実績はイベント・展示会の制作実績一覧でご覧いただけます。
費用相場と金額が動く要因
当社の料金ページでは、展示会向け動画の制作費を40万円から200万円の範囲で公開しています。幅が大きいのは、次の要因で金額が動くためです。
| 金額が動く要因 | 内容 |
|---|---|
| 撮影の有無 | アニメーションや素材支給で撮影工程を省くと下がる。実機デモやロケ撮影が入ると上がる |
| 3DCGの規模 | 製品の構造をCGで見せる場合、モデリングの点数と作り込みで変動する |
| 多言語対応 | 海外展示会向けの外国語テロップ・ナレーション・翻訳監修の追加 |
| 尺と本数 | 誘引用と紹介用など複数本を作る場合。ただし同時制作なら1本あたりは下がる |
下限の40万円台が成立するのは、構成や素材をクライアント側で用意できる場合や、撮影のないアニメーションで作る場合です。上限側は、実機の撮影に3DCGを重ねる場合や、海外対応が入る場合です。
なお、動画の制作費とは別に、モニターやサイネージ機材のレンタル・設営費が出展側の費用として発生します。機材は出展計画側の予算、動画は制作費と、分けて見積もっておくと混乱がありません。
動画制作全体の費用の内訳や抑え方は動画制作の費用相場を解説した記事で詳しく説明しています。
制作の流れと期間の目安
展示会動画が他の動画制作と決定的に違うのは、納期を1日も動かせないことです。会期は決まっており、搬入・設営日程も固定されています。当社の展示会関連の実績は、ほとんどが3ヶ月以内に完成しています。逆算すると、次のスケジュールが目安になります。
| 会期からの逆算 | やること |
|---|---|
| 3ヶ月前 | 制作会社へ相談・発注。出展規程(音量・電源・設置制限)を制作会社に共有 |
| 2ヶ月前 | 構成確定・撮影。ブースのレイアウトとモニター位置をこの時点で共有 |
| 1ヶ月前 | 初稿確認・修正 |
| 2週間前 | 納品。会場のモニターと同じ環境での再生テスト |
ポイントは、出展規程とブース設計図を制作会社に早く渡すことです。音量の上限、モニターのサイズと設置位置、通路からの距離が分かっていれば、この記事で説明した3つの制約への対応を最初から設計に織り込めます。納品後に「会場で流したら文字が読めなかった」と直すのが、最も高くつくパターンです。
依頼から納品までの一般的な工程は動画制作の依頼から納品までの流れを解説した記事にまとめています。
展示会動画のよくある質問
展示会のブースで音は出せますか?
出せますが、上限があります。多くの展示会では出展規程に音量制限が明記されており、ブース境界付近で75〜80デシベル以下といった数値が目安です。会場全体が騒がしいため、規定内でも音声で説明を聞かせるのは困難です。無音でも内容が伝わる設計を前提にし、音は補助として使ってください。
展示会動画の尺はどのくらいが適切ですか?
置き場所で決まります。通路向けの誘引用は15〜30秒のブロックをつないだ1〜3分のループ、ブース内の紹介用は1〜3分、商談用は尺を制限せず章立てで頭出しできる構成が適しています。どの瞬間から見られても意味が取れることが、長さよりも重要です。
デジタルサイネージと展示会動画は何が違いますか?
サイネージは表示するための機材やシステム、展示会動画はそこで流すコンテンツです。機材のレンタル・設営は出展計画側の費用、動画は制作費として別々に発生します。機材の選定と動画の設計は連動するため、モニターのサイズと設置位置が決まった段階で制作会社に共有するのが理想です。
展示会で使った動画は会期後も使えますか?
使えます。営業資料への埋め込み、自社サイトへの掲載、YouTube公開、次回展示会での再利用が代表的です。ただし展示会名や年号を映像に焼き込んでいたり、出演者やナレーションの使用範囲が会期限定になっていたりすると、再編集や再契約が必要になります。二次活用の予定は制作前に伝えてください。
モニターのサイズはどう選べばよいですか?
見せたい相手との距離から逆算します。看板・サイネージ業界では文字の高さは視認距離÷250が目安とされ、5m先から読ませるなら文字高さ2cm以上が必要です。モニターが小さいと、この文字サイズを確保したときに載せられる情報がほとんど残りません。通路向けなら大型を、商談スペース内なら小型でも成立します。設置の高さも重要で、画面の中心を目線の高さに近づけてください。
まとめ:展示会動画は会場の制約から逆算して作る
展示会動画の設計は、会場の3つの制約から逆算することに尽きます。音は出せないので無音で伝わる構成に、観客は立ち止まらないのでどの瞬間から見ても意味が取れるループに、画面まで距離があるので文字は視認距離から逆算したサイズにする。この3つを押さえた動画は、会場で確実に働きます。
費用は40万円から200万円の範囲で、撮影の有無と3DCGの規模、多言語対応で動きます。会期という動かせない締切があるため、遅くとも3ヶ月前には制作の相談を始めてください。
当社は展示会向けの動画をイベント・展示会の制作実績として公開しています。出展規程とブース設計の段階からご相談いただければ、会場で機能する設計を最初から織り込んでご提案します。
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