動画制作を内製化すべきか、外注を続けるべきか。この問いに対する一般的な答えは「内製はコストが下がるがクオリティに課題、外注はその逆」というものです。間違ってはいませんが、これだけでは判断できません。
判断に必要なのは金額です。ところが、内製化を扱う記事の多くは機材費までしか計算していません。実際に稟議で問われるのは「担当者が動画に何時間使い、それはいくらか」という人件費です。ここを計算しないかぎり、内製が得かどうかは分かりません。
そこでこの記事では、機材とソフトの実勢価格に加え、公的統計にもとづく人件費を織り込んだ試算を示します。結論を先に言うと、判断の決め手は動画の種類ではなく、月あたりの本数です。当社は動画制作会社ですが、すべてを外注してくださいという話ではありません。切り分けの設計こそが本題です。
内製と外注のメリット・デメリット
まず前提を整理します。一般に語られる違いは次のとおりです。
| 内製 | 外注 | |
|---|---|---|
| 費用 | 1本あたりは下がりやすい | 1本あたりの単価は高い |
| スピード | 修正や差し替えが速い | 依頼から納品まで期間が必要 |
| 品質 | 担当者のスキルに依存する | 一定の水準が確保される |
| ノウハウ | 社内に蓄積する | 社内には残りにくい |
| 業務負担 | 担当者の通常業務を圧迫する | 発注と確認のみ |
| 継続性 | 担当者の異動・退職で止まる | 発注し続ければ止まらない |
ここまではどの記事にも書かれている内容です。問題は、この表を見ても自社がどちらを選ぶべきか決まらないことです。次章から金額に踏み込みます。
判断の決め手は「本数」と「人件費」
内製と外注の比較でよくある誤りは、違うものを比べてしまうことです。
制作会社に30万円で発注している動画は、企画・構成の設計、撮影、複数名による制作体制、進行管理が含まれた成果物です。これに対して社内で作る動画は、多くの場合、既存素材の編集が中心になります。この2つを並べて「内製なら30万円が浮く」と考えると、判断を誤ります。
正しい比較は、同じ作業を社内でやるか外に出すかです。編集を社内でやるなら、比べる相手は制作会社ではなく、編集を請け負うフリーランスの単価です。そのうえで、社内でやる場合の人件費を計算します。
もう一つ、比較の前に決めておくことがあります。内製化して何を実現したいのかです。目的が「コスト削減」なのか「スピード」なのかで、判断が変わるためです。
コスト削減が目的なら、この記事の試算がそのまま判断材料になります。本数が分岐点を超えていなければ、内製化しても支出は減りません。
一方、目的がスピードなら計算は変わります。修正のたびに制作会社とやり取りする往復がなくなること、思いついた企画をその日のうちに形にできることには、金額に表れない価値があります。この場合は「多少割高でも内製にする」という判断があり得ます。ただしその場合も、実際にいくら割高なのかは把握しておくべきです。
人件費込みで試算する:内製の実コスト

試算の前提を明示します。数字は業種や体制で変わるため、考え方として読んでください。
初期費用(初年度)
| 項目 | 金額の目安 | 発生のしかた |
|---|---|---|
| カメラ(ミラーレス・レンズ含む) | 20万円 | 1回のみ |
| 三脚・照明・マイク | 10万円 | 1回のみ |
| 編集用パソコン | 25万円 | 1回のみ |
| 編集ソフト | 4万円 | 毎年 |
| 合計 | 約59万円 |
機材の55万円は買い切りで、翌年以降はソフトの年額4万円だけが残ります。外部の研修を受ける場合は、これに10万円から50万円程度が加わります。
なお、編集ソフトの年額4万円は、Adobe Premiere Proのようなサブスクリプション型を想定した概算です。無料版のあるDaVinci Resolveや買い切り型のFinal Cut Proを選ぶ方法もあり、その場合この費用はさらに下がります。ソフト代については、やや保守的な置き方の試算だと考えてください。
1本あたりの人件費
ここが多くの記事で抜けている部分です。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査(結果の概況)によると、一般労働者の賃金(2025年6月分の所定内給与額)は大学卒で月額39万6,300円でした。月160時間で割ると、時間あたり約2,477円です。実際には社会保険料などの事業主負担が加わるため、企業が負担する実額はこれより1割から2割ほど高くなります。
編集中心の動画を1本作るのに12時間かかるとすると、人件費は約3万円です。
| 工数の内訳 | 時間の目安 |
|---|---|
| 構成の確認・素材整理 | 2時間 |
| 編集 | 8時間 |
| 修正対応 | 2時間 |
| 合計 | 12時間(人件費 約3万円) |
慣れるまでは、この2倍から3倍かかると考えてください。最初の数本は学習期間です。
分岐点:月何本から内製が得になるか

前章の前提で、編集をフリーランスへ外注した場合(1本5万円)と比較します。
| 月あたりの本数 | 内製の年間コスト(初年度) | 外注の年間コスト | 有利なのは |
|---|---|---|---|
| 1本 | 約99万円 | 60万円 | 外注 |
| 2本 | 約134万円 | 120万円 | 外注 |
| 3本 | 約170万円 | 180万円 | 内製 |
| 5本 | 約241万円 | 300万円 | 内製 |
| 10本 | 約420万円 | 600万円 | 内製 |
初年度の分岐点は月3本前後です。2年目以降は初期投資がなくなるため、月1本でも内製のほうが安くなります。
ただし、この表には現れないコストがあります。
- 学習期間: 最初の数本は工数が2倍から3倍かかります。上の試算は習熟後の数字です
- 機会費用: 担当者が月36時間を動画に使うなら、その時間で本来やるはずだった業務が止まります
- 属人化: 担当者が異動・退職すると、機材とソフトだけが残ります
- 品質の差: 編集の作業時間は同じでも、成果物が同等とは限りません
したがって現実的な判断は「月3本を超えたら内製を検討し、月1〜2本なら外注のままでよい」となります。そして重要なのは、この分岐点が編集中心の動画に限った話だということです。撮影や企画を含む動画では、機材も工数もまったく変わります。
内製に向く動画・向かない動画

本数の話をしましたが、すべての動画を本数で判断できるわけではありません。もう一つの軸が、その動画が失敗したときの損失の大きさです。
この2軸で整理すると、次のようになります。
| 更新頻度が高い | 更新頻度が低い | |
|---|---|---|
| 失敗の損失が小さい | 内製に向く(SNS投稿・社内マニュアル・議事録動画) | 内製でも可(社内イベント記録) |
| 失敗の損失が大きい | 外注と内製の併用(商品紹介の量産) | 外注に向く(採用動画・会社紹介・ブランディング) |
内製に向くのは、数が必要で、1本の完成度より鮮度や量が価値になる動画です。SNSの投稿動画、業務マニュアル、社内向けの説明動画がこれにあたります。作り直しが効き、失敗しても損失が限定的です。
外注に向くのは、公開後の失敗が事業に響く動画です。採用動画は応募者数に直結し、会社紹介やブランディング動画は取引先が見ます。こうした動画は年に1本か2本しか作らないため、内製のために機材と人を用意しても回収できません。
判断に迷ったときは、次の問いが使えます。この動画がうまくいかなかったとき、作り直せばよいのか、それとも取り返しがつかないのか。作り直せるなら内製、そうでないなら外注です。
内製と外注は「工程」で組み合わせる

内製か外注かは、二者択一ではありません。実際にうまくいっている企業の多くは、工程で分けています。
| 工程 | 任せる先 | 内容 |
|---|---|---|
| 戦略・企画設計 | 外注 | 何を作るべきかを制作会社と設計する |
| 旗艦動画の制作 | 外注 | 年1〜2本の重要な動画を高品質で作る |
| テンプレート制作 | 外注 | 量産に使う型を作ってもらう |
| 素材の追加撮影 | 内製 | 日常的な撮影を社内で行う |
| 派生動画の量産 | 内製 | 短尺・SNS用の動画を型に沿って切り出す |
| 差し替え・更新 | 内製 | 価格や情報の変更を社内ですぐ反映する |
この分け方の要点は、外注した成果物を内製の資産にすることです。制作会社に旗艦動画を1本作ってもらうとき、編集の元データとテンプレートの引き渡しを契約に含めておけば、社内で派生動画を量産できます。トーンやブランドの基準も、その1本が見本になります。
逆に避けたいのは、内製と外注を無関係に走らせることです。社内で作った動画と外注した動画のトーンがそろわず、結果として両方の説得力が落ちます。
外注時に頼んでおくと、内製が回りやすくなるもの
ハイブリッドを前提にするなら、外注の発注時点で次を依頼しておくと後が楽になります。制作会社側の作業としては大きな負担ではなく、多くの場合は事前に伝えるだけで対応できます。
- 編集の元データ(プロジェクトファイル)の引き渡し
- テロップやロゴの位置、フォント、配色をまとめた簡易なガイド
- 使用した音源・フォントのライセンス情報と、社内で継続利用できるかの確認
- 撮影した素材のうち、本編に使わなかったカットの提供
これらがあると、社内での量産は「ゼロから作る」ではなく「型に沿って差し替える」作業になります。前章の試算で置いた1本12時間という工数も、型がある前提の数字です。型がなければ倍近くかかります。
内製化を始めるときの体制と落とし穴
内製化に踏み切る場合、機材より先に決めるべきものがあります。
誰が、どれだけの時間を使うか
内製化が止まる最大の理由は、担当者の業務過多です。前章の試算では月3本で36時間、つまり週に1日弱を動画に使う計算になります。この時間を通常業務に上乗せすると、必ずどこかで止まります。担当者の業務配分を変えるか、専任を置くかを最初に決めてください。
権利と炎上のリスク管理
社内で作ると、法務のチェックが働かないまま公開されることがあります。特に次の点は、公開前の確認手順として決めておく必要があります。
- 使用する音源・フォント・素材が商用利用可能なライセンスか
- 社員や顧客が映る場合、公開範囲の同意を得ているか
- 他社の商品・サービスへの言及に誤りがないか
- 社会的に不適切と受け取られる表現がないか
外注していれば制作会社側でも確認が入りますが、内製ではこの層がなくなります。チェックリストと承認者を決めておくことが、内製化の必須要件です。
撤退の基準を決めておく
内製化はうまくいかないこともあります。始める前に「半年で月3本を安定して出せなければ外注に戻す」といった基準を決めておくと、担当者が疲弊し続ける事態を避けられます。
段階を踏んで広げる
いきなり本格的な機材をそろえる必要はありません。次の順で進めると、投資を回収しながら判断できます。
| 段階 | やること | 必要なもの |
|---|---|---|
| 第1段階 | 既存動画の切り出し・尺違いの量産 | 編集ソフトとパソコンのみ |
| 第2段階 | 社内向けのマニュアル・説明動画 | 画面収録とマイク |
| 第3段階 | 簡易な撮影を伴う動画 | カメラ・三脚・照明 |
| 第4段階 | 外部公開する商品紹介などの量産 | 上記に加えてテンプレートと運用ルール |
第1段階は、外注した旗艦動画の素材があれば追加投資ゼロで始められます。ここで社内の適性と稼働の余裕を見てから、次の投資を判断してください。
個人・フリーランスに頼むという第3の選択肢
内製と外注の中間に、個人のクリエイターへ直接依頼するという選択肢があります。編集など特定の工程を切り出せる場合、制作会社より安く、社内でやるより速く進みます。
ただし、発注する企業側には契約や支払いの実務が発生します。2024年11月に施行されたフリーランス法により、取引条件を書面などで明示することや、報酬を60日以内に支払うことが発注側の義務になりました。著作権や二次利用の範囲も自社で定める必要があります。
一方、法人である制作会社への外注には、2026年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法。旧下請法)が適用される場合があります。動画などの情報成果物の作成委託も対象で、協議を欠いた一方的な代金決定の禁止や手形払等の禁止が定められています。個人へ出すか法人へ出すかで、発注側が守るべき法律も変わる点は押さえておいてください。
この選択肢の詳細は動画制作を個人・フリーランスに外注する場合の記事で、費用相場から契約の実務まで解説しています。
よくある質問
動画制作の内製化には何が必要ですか?
機材とソフトで約59万円(カメラ20万円、三脚・照明・マイク10万円、パソコン25万円、編集ソフト年額4万円。サブスクリプション型の場合)が目安です。それ以上に重要なのは、担当者の稼働時間の確保と、公開前のチェック体制です。機材より先に、誰が月何時間を動画に使うかを決めてください。
内製化すると本当にコストは下がりますか?
本数によります。編集中心の動画をフリーランスに1本5万円で外注している場合、人件費を含めた初年度の分岐点は月3本前後です。月1〜2本であれば外注のほうが安く、2年目以降は初期投資がなくなるため月1本でも内製が有利になります。ただし学習期間の工数増と、担当者の他業務が止まる機会費用は別途考慮してください。
どの動画から内製化すべきですか?
更新頻度が高く、失敗しても作り直せる動画から始めてください。SNS投稿用の短尺動画、業務マニュアル、社内向けの説明動画が適しています。採用動画や会社紹介など、公開後の失敗が事業に響く動画は外注のまま残すのが安全です。
内製化したら外注はやめるべきですか?
やめる必要はありません。多くの企業は工程で分けています。戦略設計と旗艦動画、量産用のテンプレート制作は外注し、そこから派生する短尺動画の量産や情報の差し替えを内製で回す形です。外注時に編集の元データとテンプレートの引き渡しを契約に含めておくと、この形に移行しやすくなります。
内製化がうまくいかないのはどんなときですか?
担当者が通常業務と兼務のまま始めたときです。月3本なら約36時間、週に1日弱の稼働が必要になります。この時間を確保しないまま始めると、数本作ったところで止まります。始める前に業務配分を決め、撤退の基準もあわせて決めておいてください。
まとめ:判断は「本数」と「失敗したときの損失」で決まる

動画制作を内製にするか外注にするかは、動画の種類ではなく次の2つで決まります。
1つ目は本数です。編集中心の動画をフリーランスに外注している場合、人件費を含めた初年度の分岐点は月3本前後です。それ以下なら外注のままで構いません。
2つ目は、その動画が失敗したときの損失です。作り直せる動画は内製に向き、取り返しがつかない動画は外注に向きます。
そして多くの場合、正解はどちらか一方ではなく組み合わせです。戦略と旗艦動画は外注し、そこから派生する量産と更新を内製で回す。この形にすると、外注費を抑えながら品質の基準も保てます。
当社は動画制作会社として、内製化を検討されている企業からのご相談もお受けしています。旗艦動画の制作とあわせて、社内で量産するためのテンプレートや元データの引き渡しを含めた設計も可能です。費用の詳細は料金ページ、これまでの制作例は制作実績をご覧ください。外注の費用相場は動画制作の費用相場を解説した記事、依頼の進め方は依頼から納品までの流れを解説した記事にまとめています。
1,000社5,000本の実績